ささみファクトリー

新作を中心に、見た映画のあらすじと感想を製造します。肝心なところのネタバレはしません。食べたカレーの報告もします。

「ムーンライト」/Moonlight/監督 パリー・ジェンキンス

                   

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制作 アメリカ/配給 ファントム・フィルム/上映時間 111分

出演 トレバンテ・ローズ、アシュトン・サンダース、アレックス・ヒバート、マハーシャラ・アリナオミ・ハリス、アンドレ・ホーランド

2017年のアカデミー賞作品賞受賞作。脚色賞、助演男優賞 受賞。

 

f:id:sasami_333:20170421173430j:plain  らすじ

アメリカ・マイアミの貧困地帯に住む黒人男性が主人公。少年期・青年期・成人後の今の3部構成で、彼と彼を取り巻く人々について、大変静かに、ブルーを貴重とした美しい画面の中描かれています。

 

主人公シャロンを取り巻く環境は、いつも過酷。幼少時は、友達に「オカマ」といじめられ、父はいなく、母は麻薬中毒。近所に住む麻薬ディーラーの成年フアンが、本当の家族のようにシャロンを助けてくれるものの、青年期ブロックでは、この優しきフアンは、この世から去っている。さらに、シャロンは麻薬常習者の母親にお金をせびられる。高校生活に至っては、自身の同性愛についてからかわれ、シャロンはある一線を超えてしまう。家庭にも学校にも、彼が彼らしく居られる場所はどこにもない。そして大人になった彼は…。

 

  

f:id:sasami_333:20170421173430j:plain  貧困の黒人男性が主人公なだけの「りぼん」的純愛物語

 

と、このあらすじだけ引っこ抜くと、麻薬と暴力まみれのハードな映画に感じられます。この映画の予告編でも、そんな貧困と麻薬から離れられない黒人たちの厳しい現実が描かれるのかなと思っておりました。

 

それがどっこい、これは少女マンガのようなピュアな愛の物語です。黒人、麻薬、貧困という要素は、ただの要素に過ぎないのです。物語の中心は、超内気なシャロンという人物が抱く、ある人物に秘めたるある思い。観客である私たちは、ただそれを静かに、ひたすら見届けます。

 

 

f:id:sasami_333:20170421173430j:plain   秘めた思いが人を強くする

 

彼の秘めたる思いは、一瞬の熱い恋心だけれど、過酷な環境の中で生きる彼の心に、長く長く灯火のようにきらめいています。麻薬に溺れる母、陰湿ないじめをする同級生たちに囲まれたシャロンの生活は、端から見ても地獄のような状況にしか見えません。そんな彼の生活でひとつだけ確かなものは、そのきらめきが心にあるということ。その彼とどうこうなることが大切なのではなくて、一瞬でもいいから心から誰かを好きになり、そして受け入れられた。そんな思いが心にあるというだけで、結構人は強く生きられるのはでないかなという気がしました。(だからちょっと終わり方は、それでいいのかな?と思ってしまいました。)

 

彼と彼を取り巻く優しき登場人物に、照らされる月の光。美しい青い光に照らされる時だけ、彼は彼の人生を生きることができていた。自分だけがわかってればいい「ムーンライト」的なきらめきを手に入れただけで、シャロンは強いのだと思う。貧困とか麻薬とか黒人とかはあまり関係ない、1人の人間の内面の物語でございました。

  

 

この映画をみて・・・ささみのひとこと

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                    どこのシーンのことかは、見たらわかります。

 

 

「LION ライオン 25年目のただいま/Lion/監督 ガース・デイビス

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Lion

監督:ガース・デイビス2016/オーストラリア/119

 

インドで迷子になった少年が25年後にGoogle Earthを使って、両親を探し再会するという実話を元にした話。主演は、「スラムドッグ$ミリオネア」のインド人少年を演じたデブ・パデル(すっかり大きくなっている)。恋人役に「ドラゴン・タトゥーの女」でもおなじみのルーニー・マーラちゃん。

 

実話を元にしているので、最後に母親と再会するのはわかって見ているわけですが、それでもやはり再会シーンにはグッと来てしまうものが多大にあります。見た後に、自分が大切にしている人に連絡をとりたくなります。家族でも家族じゃない人でも。

 

予告編からの印象だと、「Googleを駆使して、主人公のおぼろげな記憶からインドの生まれ場所を探し、途中色んな壁もありつつ、・・・ついにみつかった!イエイ!」というハッピーエンドまでの過程をテンポよく見せてくれるのかな(たぶんスラムドッグの少年が主人公だから)と思っていたけれど、その過程は割とざっくりと端折って描かれていて、主題は幼少時代の迷子になり里子としてオーストラリアに渡るまでの過酷な生き残りの日々、そして青年期になってある程度の成功を手にした主人公が「自分とは何か」という彼が生まれながら背負ってしまった囚われの思いと、実母に会いたい気持ちと育ての母親に気を使う狭間で彼が苦悩する様子を丁寧に描いていました。

 

主人公のサルーはインドの貧しい家庭に生まれ、母親の仕事である「石運び」を手伝いながら、兄と妹と暮らしていました。しかし本当にふとしたすれ違いによって迷子になり、2千キロくらい列車に揺られ、まったく知らない街にたどり着きます。そこで、人にだまされたり、助けられたりを幾度か繰り返し、過酷な路上生活を経て孤児を集めた施設へ移されます。その後、施設で里子をあっせんする女性に出会い、オーストラリアの裕福で聡明な夫婦の元に引き取られ、彼は「オーストラリア人」として生きて行きます。

 

この迷子になるきっかけが本当に地味で、何も特別な事があったわけでもなく、ふと、迷子になってしまっていました。だからこそそれが非常に恐ろしく、本当にあった怖い話より怖いです。5歳の子供から見える、見知らぬ人ごみだらけの駅は恐怖以外の何者でもない。この子役がほーーーんとに目がまんまるでつぶらで、それはそれはかわいい為、この子がどんどん身なりも汚くなって路上生活に陥る様子は見ていて本当にツラい。だからこそオーストラリアに渡ったあとに、夫婦の前で笑顔を見せて行くところだけで、もう気持ちはこの子の保護者です。もう大丈夫だよ、と言いたくなる。

 

物語の後半は、サルーが大学生となった後の話で、google earthというツールとの出会いで彼の人生は大きな変化に向かいます。この青年期を演じるデブ・パテルさんが、とてもさわやかで嫌みのない、ステキな演技を見せてくれました。大学に入学し、生粋インド人である友人と知り合う中で、カレーをうまく食べれない自分に気づいたり、出身地を聞かれ「オーストラリア人だけど、、本当はインド生まれなんだ」と答える中で、「自分は何者なのか」「本当の母親はずっと自分を探しているのではないか」という思いに捉われていきます。実母を探すことは、育ての母親を否定することになるのではないかと、彼の中の思いはどんどん内向きに。自分の出自に悩むサルーを見て、私たちがどれだけ「1国籍1アイデンティティ」という考えに縛られているかが、反射して返ってきました。インド系の顔立ちだからインド出身、カレーがうまく食べられて当たり前、インド人の両親がいて当たり前、という無言の周囲の思い込みはどれほどツラいものなんだろう。国籍も出自も家族環境も性別も、色とりどりのまぜまぜの中に生きていることを思いながら、人と接して行くべきではないか。それぞれの事情があって当たり前。苦悩するサルーを見て、そんな思いに気づかされる。

 

最後にはもちろん実母と再会を果たし、幸せな瞬間が訪れるのですが、ツラい現実も突きつけられます。最後に私はここで嗚咽がでそうな程、泣いてしまいました。これはぜひ劇場で見届けてほしいです。

全体的には、とても多くの人に見てほしい爽やかな作品でした。誰でも心動かされるよい作品でございました。