フロントランナー/The Front Runner/ジェイソン・ライトマン監督
「フロントランナー」
2018/アメリカ/113分
監督:ジェイソン・ライトマン
出演:ヒュー・ジャックマン、ヴェラ・ファーミガ、J・Kシモンズ など
あらすじ
1988年、アメリカ大統領選。アメリカの未来は、「ケネディの再来」と言われた最有力候補ゲイリー・ハートに委ねられようとしていた。しかし、ある一夜の報道によってその未来は崩壊していくーー。政治とメディアの関係を一変させた実話を基に描く政治映画。
2018年にフィルムで撮った「1980年代政治映画」
実際の事件を基にした政治映画。 前半は、ゲイリー・ハートが大統領選最有力候補として、イケイケドンドンに選挙キャンペーンを回る様子がテンポ良く描かれます。編集もセリフなんせ早い。えーと、民主党の候補がゲイリーハートで、レーガンがいて・・・何て考えるとどんどん話は進みます。このテンポが気持ちよくて、アメリカの政治内幕もの映画としても楽しめます。
監督は70年代の政治映画「コンドル」や「大統領の陰謀」を参考にしたらしく、この映画もなんとフィルムで撮ったそう。フィルムならではの質感や80年代のファッションや機材の再現性もあって、パキパキしすぎない画にちょっとしたタイムスリップ感を感じられます。「80年代の映画館で映画みてるみたい!」とちょっとコーフン。ワシントンポスト内のシーンでは、「大統領の陰謀」の著者兼主人公でもあるボブ・ウットワード記者も出てきます。
「私生活ではなく政策で語りたい」、中途半端に人間味のあるゲイリー・ハート
爽やかで聡明で誰もが次期大統領と思っていた人のとある報道をきっかけに、メディアとの関係が変質していく後半。観客は、彼が大統領になっていない事を知っているので、どう大統領を断念していくかが後半の見どころとなります。現代の選挙では、大統領の素質として候補の人柄や私生活の清廉性(トランプ大統領は置いといて・・)が大切なのはなんとなくわかる。
劇中でも、「ワイドショーでは地味なスーツで」「奥さんと別居中はイメージが悪いので、仲良い写真を撮りましょう」などイメージを大切にしているシーンが出てくる。でも80年代後半は、まだ候補のイメージ戦略の重大性が現代ほど重要視されていない様子。何よりもゲイリー・ハート自身が、それよりも「政策」が大事だと信じて疑わない。彼が側近にスキャンダルの対応を、と再三言われても取り合おうとしない。スキャンダルの初期対応につまずき、彼はみるみるうちに混乱に巻き込まれていく。
「選挙」と「政治」が異なることをゲイリー・ハートはまだ分かっておらず、真っ直ぐに国民と向き合おうとする姿勢は、ただのいい人。「政治」では優秀かもしれないけど、「選挙」では狡猾になりきれなかったゲイリー・ハート。この人がもし選挙にずるさを取り入れていたら、めちゃめちゃ優秀な政治家になったのではないか・・・と思わせる。「もっとずるくていいんだよ!」とスクリーンに向かって、何度思ったことか・・。
白でも黒でもない人間模様を描くジェイソン・ライトマン映画
監督は「JUNO」や「マイレージ・マイライフ」「ヤングアダルト」などの ジェイソン・ライトマン。ささみは、この監督が実は大好きなのです。一見普通に生活している人の、社会への適応がちょっと不器用なところを見事に表現してくれます。あなたの不器用さはそのままでいいんだよ、と映画で教えてくれてるような気がします。この映画も、スキャンダルによって落ちていく候補の様子を描くのかなと思ったら、実は違います。彼と彼を取り巻く人間たちのそれぞれの視点での葛藤が、実に見事に描かれています。
この監督の特徴は、登場人物を「いい人」「悪い人」にわけずに、グレーのまま描くこと。人間の感情と行動は、善と悪にきっぱり分けられるものではないと教えてくれます。この映画では、候補、メディア、スタッフ、奥さん、スキャンダル相手など、それぞれの立場の人が、それぞれの本音を腹に抱えて、政治とメディアの変質する関係に巻き込まれていきます。当事者たちも自分たちがどんな戦いに巻き込まれているかわかっていない。全員がこれは正しいのだろうかと疑いながら、行動を進めていっているように見えます。その行動の結果として、後戻りできない地点が1988年にはあったのだと気付かされます。2019年に生きるささみはこの映画を見る事で、「選挙」が変わった瞬間を目撃した気持ちになりました。
この映画を見て・・・ささみのひとこと
どこのシーンのことかは、見たらわかります。
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